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プロローグ
敵国に駆逐され、無残に引き裂かれた町。
壁が、家が、人間が、焼け焦げた匂い。
時々思う。
どこを向いても死体ばかりのこの生き地獄。
死んだ方が、幸せなんじゃないかって。
必死に生き続ける弱い奴等は、毎日神に祈ったことだろう。
争いの終結を。病の回復を。己の命を。我が子の命を救ってくれ、と。
藁にも縋る思いとでも言うか、果ては本当に神を信じているのか。
寒さを凌ぐ為の火を熾してくれるのだから、藁の方が役に立つ。
信仰なんて、ガキの時分に捨てた。
神なんて、いない。
奇跡なんて、起こらない───
(*゚ー゚)彼女が紡いだ奇跡達。のようです
【一つ目の奇跡─上─】
(,,゚Д゚)「安らかに眠ってくれ」
荒れ果てた町の入口で呟く。
その声に感情がこもらなくなったのは、いつからだろうか。
そんな事は忘れてしまった。
それ程に、俺はもう人で在る事を捨ててしまった。
敵国に蹂躙され、人々が虐殺された町。
むせ返るような異臭が鼻を突き、常人ならば耐え切れずに嘔吐してしまうだろう。
そんな所に俺は一人立ち、さっきの言葉を吐いたのだ。
偽善以外何物でもない、これからする事への、懺悔。
辛うじて人を保つ為の、儀式の様な物。
俺が生きる為だけに繰り返してきた、所業。
死体だらけの町で、使えそうな物品を拝借する。
それらを自分で使用、或いは大きな街で売り、食い繋いでいる。
神もいない、何の希望も持てないこの世界では、凡人の生きる術など限られている。
兵に志願しようとも、自国は既に敗戦必至。
それでも尚下らないプライドの為に戦いの道を歩む……
いや、暴走する王。そんな国に仕える理由などありはしない。
敵国に志願しようものなら、問答無用で相手側に切り捨てられるだろう。
最早戦争の終結は、互いの王の首を捧げなければ治まりがつかない所まできていた。
そんなモノに巻き込まれた俺のような弱い立場の国民は───
死ぬか、それとも、人を捨て生き続けるか。
二つに一つだった。
※
残された物品を見る限り、相当貧しい町だったようだ。
いや、規模はそれなりにあるが、村と呼んでも良いくらいだろう。
こんな村まで残らず食らい尽くすなんて、まったくイカれた連中だ。
(,,゚Д゚)「……それは俺も同じ、か……」
そうだ。俺も最早、人じゃない。
生きる為に手段を選ばずに、利用できる物は利用する。
俺も、奴等と一緒───
(,,゚Д゚)「……ん?」
何かが聴こえた。
緩やかに流れる風の中に、異臭とは違う別の何か。
音……いや。
声、か?
微かに聞こえる、声。
まだ生きている人間が居ると言うのか。
咄嗟に身を屈め、警戒する。
仮に兵士が残っていたとしたら、有無を言わさず殺されてしまう。
今までにも何度か、そんな危ない時があった。
俺のような奴がそうそういないのは、やはりそういったリスクがあるからだ。
瓦礫に身を隠し、ゆっくりと、見える箇所から注視していく。
動いている物はない。死体か、廃墟と化した家々ばかりだ。
しかし、声は止まなかった。
甲高い声が耳を通り、俺の頭で反響する。
しかし決して不快ではなく、寧ろ心地良い。
そうだ。
もう随分と昔……母が歌ってくれた、子守唄のような……
(,,゚Д゚)「……どこだ」
動く物がない事を確認し、声の主を探す。
他の音すらも死に絶えたこの村では、見つける事は容易だった。
少し離れた、辛うじて形を保っている小さな家。
声はその中から、聴こえていた。
その間も、声はひたすらに続いている。
途中でそれが、一定のリズムを刻んでいる事に気がついた。
そこで俺は、母の子守歌を思い出したのだ。
音程も曲調も、まったく違う。
歌詞すらなく、「ラ」と発音しているわけでもない。
ただただ、声帯という楽器を精一杯に活用し、演奏している。
しかしその優しく、柔らかな声色に、母の子守唄……母の温もりを重ね合わせていた。
慎重に家に近づき、開け放たれた窓へと近づく。
歌は一向に止む気配はなかった。
(,,゚Д゚)「……」
ゆっくりと、窓を覗き見る。
そこには───
(* ー )「───……♪」
地獄の中に迷い込んでしまった、天使。
俺の目にはそう、映っていた。
NEXT⇒一つ目の奇跡─中─
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