3 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:25:31.31 ID:K+49gH1m0
激戦の火蓋は落ちた。
───鬼神は舞う。
友が為に、子供らの為に、幾多の悪を屠った三叉戟を掲げ。
───魔王は躍る。
絶望を煽らんと、漆黒の輪舞曲に狂う。
最早両者を止められる者は、勝者だけ。
( ´∀`)────………
………────<::::::::>
疲れ果て、倒れる側は、はたして。
4 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:27:08.35 ID:K+49gH1m0
そして、もう一つ。
真紅の髪に力を漲らせ、不適に立ちはだかる。
<_プ-゚)フ
闇に飲まれた仲間を背に、迎え撃つ。
二人の少女と、一人の少年。
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ
ミセ*゚-゚)リ
不気味な力を前に、しかし戦いの覚悟は固く。
街を、仲間を、護る為に。
睨み合う最中も、闇の根源、黒きトラペゾヘドロンは輝く。
暗く、ただただ、漆黒に───
7 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:28:36.84 ID:K+49gH1m0
激戦が、始まろうとしていた。
( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
第21話『黒きトラペゾヘドロン 中編』
9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:31:11.41 ID:K+49gH1m0
<_プ-゚)フ(……ふん)
玖都留研究所所長、エクスト。
その手には黒き箱と、その背にはそびえ立つ灰白色の機械の柱。
視線の先には、ブーンとツン。
未だショボン達を包み蠢いている闇から、脱出を果たした二人。
それが気に食わなかったようだ。
ミセリが神に仕える巫女だと言うことは、彼には服装でわかっている。
しかし他の二人は、どうみても高校生だ。
それなのに何故なのだ、と。
<_プ-゚)フ(ペルソナ……いや、違うな)
あの闇の質量を凌駕する程の強力なペルソナ。
一瞬、エクストはそれを考えたが、即座に却下した。
<_プ-゚)フ(ガキの分際でそのような力……あり得ない)
決してそれは、見下しているわけではない。
何故ならば、もしエクストが同じ状況に陥った場合、力のみで脱出することは彼にも不可能だからだ。
それを成した場合、エクストよりも強力なペルソナを降魔していることになる。
ペルソナ使い同士の共振で、その様なことはないと悟っていた。
11 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:34:07.91 ID:K+49gH1m0
<_プ-゚)フ(だとすれば……打ち破ったというのか。心の内に在る闇を)
トラペゾヘドロンによって生み出された闇。
包み込んだ者の心の奥に入り込み、心の傷を永遠に見せ続けるもの。
狂い、廃人と化しても、対象が朽ち果てるまで永遠に。
それをたかだか高校生如きが、己の意志の強靱さのみで打ち破った。
そちらの方が、ペルソナの件よりも信憑性が上だ。
<_プ-゚)フ(信じられんが……認めざるをえんな)
当初の余裕の表情はない。
警戒、ではなかった。単に癪に触っているだけだ。
箱を握る手に、少し力がこもった事に、彼自身気付いていなかった。
(;^ω^)「……ジョルジュ! ショボン! ドクオ! クー!」
ミセ*゚-゚)リ「───! いけません!」
友を救おうと、闇に触れようとしたブーンをミセリが強く制す。
彼女自身打ち破りはしたが、それがどれほど危険な物かは、理解していた。
もしまた飲まれた場合、また無事に這い出せる保証はない。
ミセリが思考するは、エクストと同じ確実性の二択。
12 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:37:39.89 ID:K+49gH1m0
ミセ*゚-゚)リ(助けたい気持ちはわかる……でも、あれはペルソナでは……)
一つは、エクストと同じ答えに達した。
己のペルソナでは、あの闇に抗うことはできない。
それならば、残りの一つ。
ミセ*゚-゚)リ「……あの男を、倒すことが優先です」
ならば、力を行使した張本人を。
そちらの方が、確実性を孕んでいる。
ξ゚⊿゚)ξ(…………)
ツンもその答えに行き着いていた。
彼女もミセリと同じく、心の闇を打ち破ったのだ。
あの中で見せられたものは、ごく最近の出来事。
ξ゚⊿゚)ξ(……デレ)
変わり果てた友。
闇の中で、ツンは再度あの殺意を浴びせられ続けていた。
友の嫉妬。そして、己の無力さ。
ツンを呼び戻した物は、単純な怒りだ。
13 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:39:45.53 ID:K+49gH1m0
ξ#゚⊿゚)ξ「……許さないわ」
大事な友を、幻惑と言えど弄んだエクストに対する、怒り。
最早彼女の瞳には、彼しか映っていない。
エクストの赤い髪が、自身の瞳に浮かんだ憤怒の炎と思える程に。
<_プ-゚)フ「ク……」
<_プー゚)フ「ククク……」
激しい怒りの視線を向けられ、エクストは嘲笑の笑みを浮かべる。
彼の心に生まれたのは、彼女と同じく単純な感情だった。
愉楽。
一つ撫でれば終わると思っていた玩具が、抵抗しようとしている。
予想していなかった余興が、楽しいのだ。
既に先程思考していた疑問など、どうでもよくなっていた。
<_プー゚)フ「許さないなら……どうするというのだね?」
それならば、自分の手で絶望を見せてやればいい───
戦闘を好むエクストの心に、火がついた。
14 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:41:39.30 ID:K+49gH1m0
<_プー゚)フ(突然の乱入者のせいで神主は取られたが……
なかなかどうして、楽しめそうじゃないか)
ペルソナを使用する事は、普段の生活では皆無。
己の力を存分に奮えることに、愉悦を感じていた。
彼にとって相手が女子供であろうと、関係ない。
実力伯仲であっても、実力差があっても。
戦いの内容に違いはあれど、力を見せ付けることに変わりはないからだ。
当然───
<_プー゚)フ「少女よ」
今回は、後者。
嗜虐的な笑みを浮かべ、ツンに語りかける。
<_プー゚)フ「抵抗は自由だ」
刹那、風が舞う。
ξ#゚⊿゚)ξ『ペルソナッ!』
怒りは渦を巻き、風と成り、ツンの周囲を囲む。
それはやがて頭上へと集い、女神の姿を象る。
16 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:44:47.79 ID:K+49gH1m0
憤怒に染まる愛の女神、スアデラ。
彼女の出現が、戦いの合図だった。
ξ#゚⊿゚)ξ『ジオ!』
スアデラの手から、一筋の雷撃が伸びる。
風を切り、エクスト目掛け真っ直ぐに。
<_プー゚)フ「クク」
エクストは微動だにせず、そのまま雷撃を受けた。
ξ;゚⊿゚)ξ「───ッ?!」
雷撃は直撃した。
だがエクストにはまるで効いていない。
力の差は、歴然だ。
ミセ*゚-゚)リ『ペルソナ!』
間、髪を容れずミセリが追撃を仕掛ける。
17 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:48:04.28 ID:K+49gH1m0
ミセ*゚-゚)リ(注意を、引き付ける!)
あのままでは、ツンが狙われる。
そう考えての追撃だった。
<_プー゚)フ
エクストは相も変わらず余裕の表情だ。
完全に、ブーン達を見下していた。
ミセ*゚-゚)リ『夢見針!』
しん、と撫でるように、ミセリのペルソナ、サラスヴァティーが腕を振る。
その軌跡から生まれた無数の緑針。
直線を描き、エクストへと襲いかかる。
<_プー゚)フ「おっと」
軽く横へ跳び、ミセリの攻撃をかわした。
彼の動作、そして表情には変わらず余裕の色が伺える、が、
ミセ*゚-゚)リ(避けた! つまりは、当たれば効果はあるということ……!)
自分の攻撃は効果を与えることができると、確信を持つ。
19 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:50:45.29 ID:K+49gH1m0
<_プー゚)フ(ふむ……あの巫女が、少し厄介か)
靴底が高い音を反響させ着地をするまでに、分析を終える。
ミセリを視界に捉えつつ、視線は残る一人、ブーンへと───
<_プ-゚)フ「!」
ブーンはすでに、動き出していた。
ミセリが攻撃を放ったと同時に、エクストへ駆け出していたのだ。
( `ω´)『ペル───』
ミセリの言葉を受け、気付かされた優先すべき事。
即ち、エクストを倒すことに全力を注がんと、疾駆する。
二人の距離は、大股でおよそ二歩。
ブーンの、間合いだ。
( `ω´)『───ソナァッ!』
うねる炎を纏いし炎神、スヴァローグ。
振り上げたその手には、周囲の炎から生み出された炎の剣。
20 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:54:09.39 ID:K+49gH1m0
( `ω´)『火炎撃ッ!!』
迷い無く、炎を散らし振り下ろされる灼熱の斬撃。
しかしその一撃は、エクストの頭上で止まる。
<_プ-゚)フ「……」
スヴァローグの剣と交差するのは、同じく、炎を纏った大剣。
己の剣が止められたことを知ると、ブーンは即座に後方へ跳び、間合いを取った。
ξ;゚⊿゚)ξ(……)
(;^ω^)(……やっぱり)
ミセ*゚-゚)リ(そう簡単には、いきませんね)
三人の見つめる先。
ブーンの攻撃を防いだ大剣と、それを掲げる赤い影。
<_プー゚)フ「少し、君達を甘く見ていたようだ」
23 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 22:57:46.65 ID:K+49gH1m0
赤い影は、次第にその姿を具象化していく。
燃えさかる大剣はそのままに、それを握る拳が現れ。
<_プー゚)フ「まがりなりにも、ペルソナ使い」
赤は衣。
炎を象徴するように、端々は外側に跳ね上がり。
外套から覗く漆黒の肌には、血がなぞったような赤黒い筋がいくつにも。
<_プー゚)フ『ペルソナ───』
エクストの周囲の空間が、陽炎のように歪む。
それは炎の所為なのか、それとも、ペルソナから溢れる力の所為か。
<_プー゚)フ「これを以て、お相手しよう」
ペルソナが大剣を横薙ぎに一閃させ、その後剣先を三人へと向ける。
ブーン達が咄嗟に身構えたが、それは攻撃ではなかった。
宣戦、布告。
<_プー゚)フ「征くぞ。スルト」
25 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:00:04.19 ID:K+49gH1m0
灼熱の国を護る巨人、スルト。
握り締めた業火を纏うその剣を、一部でこう呼ぶ者達がいる。
レーヴァテイン、と。
ミセ;゚-゚)リ(……あの時の、鈴木ダイオードと同じくらいの……力……)
ミセリがその身に受ける威圧感は、あの時と同じものだった。
ダイオードは、モナーが引き受けた。
それも、全力でだ。
ミセ*゚-゚)リ(……やるしか、ない)
モナーはここにはいない。
今動ける者で最も実力があるのは、ミセリだ。
ミセ*゚-゚)リ(恐らくは、炎を操るはず……それなら、まだ)
炎に対する防御手段を、ミセリのペルソナは持ち得ている。
それに加え、ブーンのペルソナも炎の耐性を持つ。
ミセ*゚-゚)リ(私が攻撃にまわっても、回復にはツンさんがいる)
個々の役割、立ち回りを瞬時に整理し、戦いに臨まんと。
ミセ*゚-゚)リ(……大丈夫。勝てる……いえ、勝つ!)
28 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:02:43.08 ID:K+49gH1m0
( ^ω^)(……)
スルトが現れた時、ブーンはツンの正面に立った。
彼女の盾と成る為にだ。
( ^ω^)(完璧に耐えられるかはわからないけど……少しなら、多分)
ブーンもこれまでの戦闘から、ペルソナの相性を学んでいた。
彼もまた、ミセリと同じくエクストが炎を得意とするペルソナ使いと判断。
スヴァローグが炎を操るのなら、自分にも多少は炎からの耐性があるはずだと踏んだ。
それは、正しい。
だが。
<_プー゚)フ「……」
スルトが大剣を横脇に携え、
<_プー゚)フ『ヒートウェイブ』
先程と同じ、横薙ぎの一閃。
違ったのは、それと同時に生まれた剣圧。
初速から最速の衝撃波が、ブーン達へ襲いかかる。
29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:06:48.96 ID:K+49gH1m0
(;゚ω゚)(ヤバイ!)
ξ;゚⊿゚)ξ(───ッ!)
ミセ#゚-゚)リ「ふせてッ!!」
ミセリが声を荒げたと同時、三人は素早くふせた。
二人がミセリの声とほぼ同時に動くことができたのは、直感だ。
殺意と、間近に感じた死の匂い。
その二つが、彼らの体を本能的に動かせた。
三人の頭上を通過し、横一文字の剣圧は闇を掠め、後方の壁へ衝突する。
コンクリートの壁には、深い溝が刻まれていた。
<_プー゚)フ(……今のであれを破壊するに至らない、か。素晴らしいな)
刻まれた溝は、闇を掠めた分幅が狭くなっていた。
あの剣圧ですら飲み込み、威力を殺いだということだ。
ブーン達に避けられたことなどどうでもよく、エクストはそのことだけに関心をした。
(;゚ω゚)(……)
後ろを振り向かず、ブーンは屈んだままエクストを見上げる。
32 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:10:15.86 ID:K+49gH1m0
(;゚ω゚)(……甘かった……かもしれないお)
炎の耐性以前の問題だった。
小細工を弄さずとも、ブーン達を倒す手段はいくらでも。
冷たい汗が、ブーンの全身に浮かぶ。
その時、ブーンの背にツンの手が触れた。
ξ゚⊿゚)ξ『ラクカジャ』
物理攻撃の耐性を向上させる言霊。
青白い光が少しの間ブーンの体を包み、体の中へ沈むように消えた。
( ^ω^)「ツン……ありがとうだお」
背を向けたままに、礼を言う。
ξ゚⊿゚)ξ「……私は、大丈夫よ」
ブーンが即座に自分の前に立った事の意味を、ツンは理解していた。
それに腹を立てたわけではない。
ブーンの性格を知るツンは、彼がそうすることは予測していたからだ。
ξ゚⊿゚)ξ「私に気を配ってちゃ、アイツは倒せない」
33 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:13:28.08 ID:K+49gH1m0
背に手を当てたまま、強い口調で。
・ ・
ξ゚ー゚)ξ「大丈夫。そんなにやわじゃないのは、ブーンも知ってるでしょ?」
背中に笑顔を向けながら、続ける。
ξ゚ー゚)ξ「自分の身は、自分で守るから……ね」
そして優しく、背を押した。
( ^ω^)(……)
直ぐに立ち上がる。
背中に感じた暖かい手から、ツンの覚悟を受け止めた。
それを踏みにじることはできない、と。
( `ω´)「行くお……!」
彼もまた、覚悟を決めた。
ミセ*゚ー゚)リ(……)
ミセリも、立ち上がる。
出会って数日、十数時間しか共に行動していないが───
彼女にとって、彼らはもう信頼できる仲間なのだ。
38 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:16:40.38 ID:K+49gH1m0
ミセ*゚ー゚)リ「行きますよ。ブーンさん、ツンさん」
数拍の間に交わされた覚悟の授受を、彼女も理解していた。
<_プー゚)フ「さて、仕切り直しだ」
電子音が静かに響く室内に、エクストの低い声が重なる。
加えて、ペルソナ・スルトの威圧感。
それらが三人の緊張感を煽る。
しかし、それに押し潰されることはない。
じっとりと滲む汗すらも、戦いへ臨む覚悟を決めた彼らには、
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ
ミセ*゚-゚)リ
心地良い。
40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:19:04.27 ID:K+49gH1m0
ξ゚⊿゚)ξ『ラクカジャ』
物理防御力を上昇させる言霊を、ミセリにも唱える。
青い光がミセリを包み込み、すぐに消えた。
ミセ*゚ー゚)リ、
こくりと、僅かな動作で応える。
それと同時に。
( `ω´)(行くお……!)
ブーンが駆けた。
<_プー゚)フ(馬鹿正直に……正面からか)
尚も余裕の表情で迎え撃つ、エクスト。
油断ではなく、自身の力を絶対と信じる故の、余裕。
それは過信でもなく、驕りでもなかった。
<_プー゚)フ『スルト』
42 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:21:21.71 ID:K+49gH1m0
使役者を護るように前面へ立ち、ブーンを見下ろす巨人、スルト。
( `ω´)(スヴァローグの力で……アイツにダメージを与えられるのは……)
<_プー゚)フ「少年」
( `ω´)「……?!」
ブーンが攻撃手段を決めた、その時。
距離にして四歩の所で掛けられたのは両者の攻撃でなく、エクストの声だった。
無視をして攻撃に先んじることが、恐らくは最善手。
まんまと勢いを殺がれた、とブーンが考えたが、それは違う。
エクストにそんな狙いはなかった。
<_プー゚)フ「わかるか? 私と君のペルソナの特性が」
( `ω´)「……」
少しの、思案の後、
( `ω´)「……炎」
<_プー゚)フ「上出来だ」
44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:23:04.15 ID:K+49gH1m0
<_プー゚)フ「力比べと、行こうじゃないか」
そう言って、左の二の腕を軽く挙げる。
それに合わせ、スルトが大剣を上段に構えた。
その動作が意味する事。
( `ω´)「……」
ブーンは瞬時に理解した。
( `ω´)(なめんじゃねーお……!)
理解と同時に奔ったのは、怒り。
ミセ*゚-゚)リ(…………)
二人のやり取りを後方で見つめるミセリ。
止めようとは、決してしなかった。
ミセ*゚-゚)リ(ブーンさんには申し訳ないですが……これは、好機……!)
隙あらば、例えどんな状況であってもエクストを討つ、と。
じり、じり、と、静かに軸足を前方に置いたままで距離を縮めていた。
45 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:25:31.31 ID:K+49gH1m0
<_プー゚)フ「全力で───」
( `ω´)「早く仲間を助けたいんだお」
と、エクストの言葉を遮る。
しかしそこに焦燥感はない。
( `ω´)
力はこの上なく、充実している。
<_プー゚)フ「……ふん」
最早一切の揶揄嘲弄は意味を成さずと、エクストは理解する。
そして。
『静』が、弾けた。
( `ω´)『ペルソナッ!』
<_プー゚)フ『ペルソナ……!』
46 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:27:05.20 ID:K+49gH1m0
─────跳躍
宙はブーンと、スヴァローグ。
迎撃─────
地はエクスト、そしてスルト。
繰り出す“閃”は
(`ω´ )
『
火 炎 撃 ! !
』
<_プー゚)フ
47 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:30:00.65 ID:K+49gH1m0
上方から下方へ、中空から振り下ろされる縦一文字。
下方から上方へ、すくい上げるように振り上げられる縦一文字。
( `ω´)「おおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」
<_プД゚)フ「つあぁぁッ!!」
剣と剣。炎と炎。
炎を象徴するペルソナ同士の紅蓮の斬撃が、衝突する。
ミセ; -゚)リ(……くっ)
交錯の瞬間、音と共に弾けた剣気と熱気が波となり周囲に広がる。
熱風はミセリを通過し、広がるにつれ空間へと溶けていった。
それは、数瞬のことだ。
ペルソナの邂逅は、まだ終わってはいない。
48 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:32:00.52 ID:K+49gH1m0
(;`ω´)「お……おおおおぉぉぉ……!」
<_プー゚)フ「そら! どうした!」
既にブーンの足は地に着いて。
スヴァローグは中空で剣を押し続けている。
初撃は、互角だった。
打ち上げに対し、慣性を付加した打ち下ろしで、互角だ。
慣性が死んだ今、重力を味方につけてはいるが、それでも。
やはり二人の差は、大きい。
<_プД゚)フ「その程度かァッ!」
スルトの腕が動く。
上方へ、スヴァローグの剣を破壊せんと。
(;ヽ゚ω゚)「……ぐっ!」
ブーンの頬に、赤い筋が走った。
スルトの持つ大剣から伸びた炎刃が、頬を掠めたのだ。
押されている。
49 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:33:52.31 ID:K+49gH1m0
斬撃の後、切り口へ炎が雪崩れ込み内から焼き尽くす、それが火炎撃だ。
物理の衝突は互いに止まり、遅れて炎が降りかかる、が……
その炎が、押されていた。
(;ヽ゚ω゚)(ま、負けるかお……!)
火炎に耐性があるはずが、スルトの炎はスヴァローグのそれを凌駕していた。
このまま拮抗状態を保っていたとしても、やがては炎に飲まれ、ブーンは。
<_プ-゚)フ「……所詮は、この程度か」
やはり、玩具は玩具。
無駄な時間を過ごしたとエクストが心の奥で呟いた時。
ミセ*゚-゚)リ『炎の壁!』
駆け、叫ぶミセリ。
その後直ぐに現れる、炎を防ぐ防御壁。
現れた場所は、ブーンの眼前だ。
<_プ-゚)フ「ちぃッ……!」
(;ヽ^ω^)(───! ミセリさん!)
エクストから目は離さない。しかし、彼女の援護ということは声で悟っていた。
53 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:36:17.20 ID:K+49gH1m0
(ヽ^ω^)(……)
目の前に現れた、炎の壁。
ブーンは思考する。
これは───
(;ヽ^ω^)(……僕は押されてるお……)
ミセリが、言わんとしていること。
(;ヽ^ω^)(このままじゃ、押し切られる……)
今も、この瞬間も、ブーンは確実に押され続けている。
(ヽ^ω^)(………!)
その背に、感じた。ミセリの気配を。
ミセリは駆け出している。それは何故だ。何の為に。
頭の中で、駆け巡る。
(;ヽ^ω^)(くそ……!)
54 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:39:08.70 ID:K+49gH1m0
( 何故。 どうして。 どうすれば。 ミセリは。
スルト。 スヴァローグ。力の差。 勝てない。 押される。
押し返す? できない。 ミセリが。 炎の壁。 これは。
一旦距離を? それが正しい? わからない。 どうすれば。
僕は。 最善手は。 安全な所へ。 こいつを倒す? 倒す。
強い。 でも。 やらないと。 答えは。 いったい。
救わなきゃ。 仲間を。 その為には? こいつを、倒す。
今は? 今はどうすれば。 わからない。 下がる、下がるか?)
一秒にも満たない時の中、巡る迷いに、巡る答え。
刹那。
ξ#゚⊿゚)ξ「ブーン!」
(ヽ ω )「────!」
護るべき人の、声。
56 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:42:47.64 ID:K+49gH1m0
一刻を争う時の中、ツンは伝えるべき事を全て叫んだ名にこめた。
受けたブーン。冷水を浴びせられたように、急激に頭が冴えて行く。
(ヽ ω )(そうだお……後ろにはツンがいる……僕は思い切り、戦えば……)
もう、ミセリの気配はすぐ傍にまで。
(ヽ ω )(攻めるか、退くか、二択でしかない……!)
<_フ-゚)フ
そして、エクストの注意がミセリへと、流れた。
同時に緩む、剣と炎。
好機は、訪れた。
(#ヽ`ω´)「攻めるしか……ねーだろおおおぉぉぉおお!!」
57 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:45:02.68 ID:K+49gH1m0
<_;プ-゚)フ「くっ……」
突如、エクストに伸し掛かる圧力。
ブーンの剣に、重圧がかかる。
炎の壁がスルトの炎を緩和していることに加え、エクストの意識が逸れた事。
二つの要素は、ブーンが反撃に転じ、且つ───
(#ヽ`ω´)「おおおぉぉぉぉおお!!」
押し切る事を、可能にした。
<_;プД゚)フ「ぐおッ?!」
掲げ、押し上げていただけの大剣は容易くいなされ、宙を泳ぎ、
その時には、炎の壁は既に消え、
ミセ#゚-゚)リ『夢見針!』
最善手が、放たれた。
58 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:47:57.06 ID:K+49gH1m0
スヴァローグは握る柄を下方へと押し、直角の接点は急斜面へと変化する。
炎という異の効力を殺がれた大剣は、力をこめた上方へとただ滑るだけだった。
炎神はそのまま着地。エクストの懐へと潜り込む。
直後、ブーンはペルソナを屈ませた。
その頭上を過ぎていく、鮮やかな緑の流星。
<_#プД゚)フ「ぐ……あ……おぉぉぉぉ!」
ブーンには、それがひどく低速に感じられた。
エクストの声すらも、遅く、遅く。
はっきりと目に映る、エクストの回避の動作と、ミセリが放った夢見針。
エクストはスルトの大剣を下げ、緑針の直線を遮ろうとする。
ブーンにはそれが見えていたが故に、悟る。
(ヽ ω )(防がれる──)
それならば、己がすべきことは一つ。
59 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:50:25.18 ID:K+49gH1m0
立ち上がるスヴァローグ。
ブーンはエクストに向け右手をかざし、左手で手首を握る。
<_プД゚)フ「───ッ!」
大剣は、エクストを覆い隠した。
直後、弾かれた緑針は高い音を発し、はらはらと散る。
ミセリの虚を突く一撃は、エクストを捉えるに至らなかった。
ミセ*゚-゚)リ「ブーンさん!」
だが、それで良いのだ。
なぜならば。
(ヽ`ω´)『永遠の……』
次へと繋ぐ、『最善手』なのだから。
(ヽ`ω´)『白ッッ!!』
61 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:52:43.91 ID:K+49gH1m0
スヴァローグを取り巻く業火が発光する。
炎はうねり、いくつもの線となり、それらが更に絡み合う。
最早それは、炎であって炎ではない。
悪を滅する、神聖なる白炎。
<_;プД゚)フ「ぐあッ?!」
降り注ぐ、白光の流星群。
十数本の白炎は槍と成り、エクストを捉える。射す。穿つ。
大剣を前方に構えたまま、耐える。
受けの構えであろうとも、ブーンには関係ない。
(ヽ`ω´)『おおおおおおおぉぉぉぉぉおお!!』
全力を叩き込むのみだ。
<_フ Д )フ「ぐ……ぉ……」
62 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:54:48.34 ID:K+49gH1m0
最後の聖槍が落ち、白光を円状に広げ、静かに消失していった。
閃光の後、ブーン達が視界に捉えた光景は。
大剣の腹を向け攻撃を防いでいたペルソナの姿はなく。
使役者エクストが片膝を地に着け、肩を上下させていた。
(;ヽ`ω´)「はッ……はッ……はッ……」
『永遠の白』を放ったブーンも、消耗が激しい。
すぐにツンが駆けつけ、
ξ゚⊿゚)ξ『ディア』
せめて頬の傷はと、回復の言霊を紡ぐ。
(;^ω^)「あ、ありがとだお……」
ξ゚ー゚)ξ「……うん」
がんばったね、とツンが続けようとした、その時。
ミセ*゚-゚)リ「二人とも! 下がってください!」
未だ気を張り詰めていたミセリが、叫ぶ。
64 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:57:24.66 ID:K+49gH1m0
そうだ。
エクストはまだ、倒れてはいない。
ダメージはあるだろう。
だが。
倒れては、いない。
(;゚ω゚)「!」
ξ;゚⊿゚)ξ「!」
二人が間近で感じた、膨れ上がる強烈な殺意。
すぐさまエクストから距離を取る。
<_フ Д )フ
地に片膝をついたまま。肩を大きく上下させたまま。
闘気と殺意は制限なく、膨張していく。
<_フ Д )フ「ハァ……ハァ…………ガキ……どもが……」
65 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/29(火) 23:59:27.49 ID:K+49gH1m0
ミセ*゚-゚)リ『夢見針!』
構わずに、追撃。
深緑の針が、三度飛ぶ。
<_#プД゚)フ『ペルソナァァァッッ!!』
轟。
エクストの覇気が、四散する。
再び現れたスルトは、既に一閃を放つ構え。
<_#プД゚)フ『ヒート──ウェイヴ!!』
初撃と同じ技だが、その威力は遥かに。
憤怒と殺意をのせた、必殺の一撃。
赤い斬撃はミセリの攻撃をいともせず吹き払い、三人へと伸びる。
66 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:04:14.87 ID:umuQl57W0
(;゚ω゚)「ツンッ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「っ!」
避けずに、ブーンはツンに覆い被さる。
そうすることしか、出来なかった。
ミセ;゚-゚)リ『ペルソ───』
防御の為、ミセリも咄嗟にペルソナを出現させようと、
<_#プД゚)フ「ガキどもが! 皆殺しだ!」
怒号と同時、斬撃が触れた。
ミセ; Д )リ「くっ……ああああっ!!」
(; ω )「がああぁぁっ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!! ミセリさん!!」
ミセリは辛うじてペルソナを喚ぶことが出来た。
直後、サラスヴァティーの羽衣が切り裂かれ、宙をひどくゆっくりと泳ぐ。
67 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:06:38.71 ID:umuQl57W0
羽衣の切れ端は現世との干渉を持つ術を無くし、虚空へと消えた。
羽衣の主は、腕を交差させ立ち尽くしている。
ブーンはツンを庇い、斬撃を背で受け止めた。
背に触れるもの───抉り、傷を生み、死を呼ぶ凶刃から、ツンを護る為に。
赤の斬撃が三人を通過して、直ぐ。
ミセ; - )リ
両腕と。
(; ω )
逃げでなく、護る為に向けた背から。
鮮血が舞った。
71 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:10:31.85 ID:umuQl57W0
ξ;゚⊿゚)ξ『スアデラ!』
覆い被さるブーンの背に、赤いものが見えた直後、ツンはペルソナを喚ぶ。
回復の魔法をかけつつ、ブーンの体をうつぶせに寝かせる。
傷は、深い。ツンの力では止血すら絶望的と感じられる程に。
(; ω )「あ……ぐ……」
呻くブーンの声は、ツンの焦燥感を確実に高まらせた。
あの時とは違い、咄嗟に行動に移しなんとか処置を施そうとしている。
が、力が届かないことは紛れもない、あの再現。
一方、紅白の巫女装束は両腕から溢れる血液により、そのほとんどの面積が赤に染まる。
苦痛に抗い、ミセリはそれでも立っていた。
ミセ; - )リ「はぁっ……はっ……」
呼吸を、落ち着かせる。両腕は力無く下げられたままで。
その手は最早、ミセリの意思では動かなかった。
ミセ;゚-゚)リ『ペル……ソナ……!』
両腕を動かす、唯一の手段。
掠れた声で名を紡ぎ、回復を試みようと───
72 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:14:07.06 ID:umuQl57W0
<_プД゚)フ「回復などさせん!」
膝をついた状態で地を蹴り、ミセリ目掛け跳ぶ。
ミセリと同じ様に、エクストの右腕はブーンが与えたダメージにより動かないようだ。
だがそれは、憤怒が苦痛を凌駕している彼にとってはどうでも良いことだった。
ミセ; - )リ「がっ……ぅぐ……」
回復をする寸前で、エクストに喉を掴まれる。
細く白い喉を締め上げる。その力はミセリの意識を分断するに十分過ぎるほどだ。
そんな状況下で彼女がペルソナを喚ぶ事は、できなかった。
ミセ; - )リ「か…………は……」
最早彼女の口からは、掠れた呼吸音が漏れるだけだ。
だがそれでも、エクストが手を緩めることはない。
当然だ。殺そうとしているのだから。
ξ;゚⊿゚)ξ「ミセリさん!!」
ブーンの出血は多少穏やかになったものの、まだ止まっていない。
しかし目の前で、ミセリも窮地に立っている。
ξ; ⊿ )ξ(ブーン……ミセリさん……)
焦燥の果て、あるのは絶望でしかない。
ブーンとミセリを交互に見、焦り、震え、瞳に涙を溜める事しかできない。
73 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:16:16.46 ID:umuQl57W0
無力。
行動に移しても、あまりに、無力。
ξ; ⊿ )ξ(…………わたしは……)
迷い。
ξ; ⊿ )ξ(助けたい……二人を……皆を、死なせたくない)
迷走。
ξ; ⊿ )ξ(でも……私の力じゃ……)
見えない答え。
ξ; ⊿ )ξ(……どうすればいいの……)
力無き己に対しての怒り。意思は確かに、強固に固まった。
ブーンを、皆を、そしてデレを、自分が必ず救うと。
しかし、どれだけ強固な心を持とうとも。
実行する、“力”が無い。
ξ; ⊿ )ξ(私に……もっと“力”があれば……)
75 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:20:19.55 ID:umuQl57W0
ξ; ⊿ )ξ(アイツを倒せるだけの、“力”さえあれば───)
「……ツ……ン……」
葛藤するツンを現実に戻した声。
彼女の膝元で横たわる、ブーンの声だった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ブ、ブーン……」
(; ω )「僕はいいから……早くミセリ……さんを……」
振り絞る声で、ミセリを助けろと訴える。
ツンによって多少は苦痛も和らいでいたようだが、その表情に変化はなかった。
それなのに、ブーンは両腕を立て、身を起こそうとしている。
ξ;゚⊿゚)ξ「だ、ダメよ! まだ……」
(; ω )「早く!」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
(; ω )「早くしないと……ミセリさんが……死んじゃうお……」
二人にはごく最近まで、現実であって現実的でなかった、間近で薫る死の匂い。
そう。このままでは確実に、ミセリには死が訪れる。
77 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:23:23.04 ID:umuQl57W0
(; ω )「ツン……いくんだお……!」
ξ;゚⊿゚)ξ「…………」
ツンは、動けなかった。
助けたい、助けたいのに、体が動かない。
矛盾は全て、自身の足りない“力”が起因していた。
ξ;゚⊿゚)ξ(私がいったって……助けられるかどうか……)
最早意思すらも、崩れ落ちようとしていた。
“力”が足りないから、仕方がない。
エクストには勝てないから、仕方がない。
無力への怒りは矛先を変え、醜い思いを抉り出す。
ξ; ⊿ )ξ(…………)
( ω )「……」
腕に力をこめて、膝をつき、たたらを踏んで立ち上がる。
前のめりの上体は、それだけで痛々しいものだった。
それでもブーンは、立ち上がり、敵を睨む。
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン! ダメよ!」
78 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:26:00.95 ID:umuQl57W0
ツンの制止も構わずに、無理矢理にその表情を変えた。
(;^ω^)「無理言って……ごめんお……」
痛覚が溢れさせた汗を滲ませ、いつもの朗らかな表情で。
(;^ω^)「……行ってくるお」
全ては、全てを護るために。
ブーンは、地を蹴った。
ξ;⊿;)ξ「ブーーーン!!」
最早ツンが何を言っても、ブーンが止まることはない。
言葉が届かないのなら、することは一つだけ。
それは即ち、動くこと。
80 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:29:04.49 ID:umuQl57W0
鉛のように重かった足は、ブーンの背を見た瞬間に動き出した。
彼の名を叫ぶことで、胸中の闇は四散し、ただ一つの思いだけが残る。
ξ;⊿;)ξ(助ける! ブーンを!)
ブーンは最後に、ツンに微笑みかけた。
動けなかった臆病な、決意を鈍らせた嘘吐きへと。
同じ様にエクストには敵わないのに、彼は向かった。
万全でも届かぬ敵に、瀕死の重傷を負いながら、彼は駆けた。
力量も、状態も、何も考慮せずに、思いだけで。
無謀だ。誰もがそう思う。
しかし、やらねばならないその瞬間。
ツンのその時は、ブーンの一歩後だった。
ξ゚⊿゚)ξ
その瞳に、涙はもう浮かんではいない。
82 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:32:27.13 ID:umuQl57W0
(;゚ω゚)「ツ、ツン!?」
手負いのブーンを、ツンはすぐに追い抜いた。
尚も走る。苦しみ呻く、ミセリを助けんとするために。
ツンとブーンの様子は、エクストも視界の端で捉えていた。
<_#プД゚)フ「……雑魚が! 寝ていろ!」
視界に入ることすら、エクストの不快感を煽るに十分な行為だった。
無意識に、首を絞める左手から少し力が抜け、右腕をだらりと下げたまま、紡ぐ。
<_プД゚)フ『スルト!』
呼応。即座に巨躯を持ち上げ現れる炎の巨人。
大剣は、行使者の右腕と同じ様に下げられている。
それはエクストの状態が影響しているわけではない。
今回は、大剣は使用せず。
<_プД゚)フ『アギラオ!』
スルトが片手をツンに向け、その身に奔る炎が手の平へ集束する。
火炎は固まり、生まれたものは人の体程の巨大な業火球。
そしてそれが、放たれた。
83 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:35:30.67 ID:umuQl57W0
ξ;゚⊿゚)ξ「───ッ!」
眼前に迫る業火球。
直撃すればツンは当然、その余波でブーンも被害は免れない。
しかし避ければ、後方に居るブーンに直撃する。
万事、休す───
その時。
突如ツンの目の前に、赤い壁が生まれ出た。
<_#プД゚)フ「……悪足掻きを」
無意識の内に緩めた左手。その隙にミセリは自身の回復ではなく、
ツンの身を守る為に炎の壁を出現させたのだ。
エクストの怒りは、更に助長させられた。
そしてぶつかる、赤と赤。
爆音の後、赤い爆光が弾けた。
85 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:37:40.00 ID:umuQl57W0
やはりミセリの力でも、威力を軽減するのが精々だ。
拡散した炎の波が、ツンに迫る。
ξ゚⊿゚)ξ『ペルソナ!』
スアデラに炎の耐性はない。
だがそれでも、ペルソナを盾にすれば多少は魔力からの被害を抑える事は可能だ。
当然、ペルソナの被害は使役者に降りかかるが。
ξ; ⊿゚)ξ「…………ッ!」
吸い込めば肺を焼かれる程の熱気がツンを襲う。
白い手はすぐに赤色を帯び、腫れ、火傷を生み出していく。
だが、それでも。
ξ;゚⊿゚)ξ(わかってれば……耐えられるんだから!!)
ブーンとミセリが受けた傷に比べれば、この程度。
そう自分に言い聞かせ、構わずに突進を続けるツン。
ξ; ⊿゚)ξ(……私のペルソナに力が足りないのなら……!)
ペルソナの力が通用しないことは、絶望的になる程思い知らされた。
それ故に、ツンが導き出した答え。
86 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:40:51.15 ID:umuQl57W0
ξ#゚⊿゚)ξ「たああああああぁぁぁぁぁ!!」
<_;プД゚)フ「な!? ぐおっ!」
ツンは手負いと判断した右腕目掛け、肩から思い切り体当たりをした。
ペルソナが通じないなら、自分の体を使うまで、と。
形振りなど、この際彼女には関係なかった。
現にそれは、エクストの虚を突く事に成功し、怯ませるに至った。
右腕が手負いであることも、正解だ。
ぶちかましを食らった右腕に激痛が走り、エクストは思わずミセリから手を離す。
<_#プД゚)フ「おの……れぇぇぇぇぇぇ!!」
ついに怒りが頂点に達したエクストは、痛みも忘れ右腕を振り抜く。
ξ; ⊿ )ξ「きゃうッ!」
裏拳がツンの顔面を直撃し、大きく横方向へ飛ばされた。
吹き飛び、体が地についても尚滑り、転がり、そびえる機械の柱によって慣性を停止する。
ツンが横たわり呻くそこは、エクストが最初に立っていた場所だった。
ξ; ⊿゚)ξ「う…………」
直ぐに立ち上がろうと、上体を起こす、が。
頭に残る衝撃が、彼女の体に電気信号を送ることを許さない。
87 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:43:46.36 ID:umuQl57W0
<_#プД゚)フ
眉間に皺を寄せ、眉を吊り上げ、口には隙間無く噛み合わせた歯が僅かに覘いている。
最早研究所の責任者である威厳も、当初の余裕の影も無し。
見下していた弱者に傷をつけられた事への、怒りのみが溢れていた。
それは彼の、悪い癖だった。
高みにいる時は冷静であるし、頭も切れる男だ。
だが、慢心の域を遥かに超越し、力に対して信仰の念すら抱いている彼は、
己と、認めた者の力以外の一切を否定する。
ブーン達三人は当然、否定された枠だ。
だからこそ、見下していた。それなのに、この状況。それに憤慨しているのだ。
力に関しては常に直情的な事は、彼をここまで強くした長所であり……
冷静な判断をさせなくする要因でもあった。
( ω )
ミセ*゚-゚)リ
エクストがツンから視線を外した次に視界に飛び込んだものは。
ミセリによって完治した、二人の姿だった。
彼が左手を離したその瞬間から、ミセリは既に動き出していたのだ。
89 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:46:36.94 ID:umuQl57W0
ペルソナを使用した消耗はあれど、外傷は回復し二人は万全に近い。
一方のエクストはそれに加え、右腕の負傷。
その差が実力差を埋めるものかは定かではない、が。
心理的には、ブーン達が有利であることは明白だ。
<_#プ-゚)フ「……調子に乗るなよ」
対峙。
二人が攻めに転じたわけではないが、エクストはその空気を読み取っていた。
勢い付くこと、即ち流れというものは、どのような勝負事にも必勝を招く。
だが彼は、そんなものを信じない。
<_プ-゚)フ(…………)
戦いが振り出しに戻ったことで、彼もまたゆっくりとだが冷静さを取り戻す。
流れは、読める。それ故に、その流れを押し返そうと。
<_プ-゚)フ(そんなもので……)
自身の力への信仰心が、怒りを押さえ付けたのだ。
自身にとっての悪風を、柳のように受け流すように。
<_プ-゚)フ「……二度目は、ないぞ」
この瞬間、感情任せではなく、己の意思で、本当の意味で本気になった。
91 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:48:54.15 ID:umuQl57W0
横たわりながら、なんとか動向を見つめるツン。
うまく意識することができず、自身の回復すらできない状態だった。
ξ; ⊿゚)ξ(ブーン……ミセリさん……)
形勢が逆転したわけではないことは、ツンにもわかる。
むしろここからが本当の始まりであることも。
しかし彼女は、そこに加わることはできない。
ξ; ⊿゚)ξ(……私にできるのは……ここまで、か……)
経緯はどうであれ、結果を見れば彼女は十分に戦いに貢献した。
しかし誰に言われても、自己解決を計ろうとも、納得のできることではない。
そこに降りかかる物はやはり、己の力量不足という現実だ。
ξ; ⊿゚)ξ(……くやしいなぁ……)
力も及ばず、ツンを動かせた切っ掛けは、ブーンだった。
近いのに、遠い場所。届くのに、届かない場所。目に映るその場所に、共に立てていない現実。
ξ; ⊿゚)ξ(……私にも……力があれば……)
上体を、三人の方へと向ける。
それは状態異常の回復を意味しているが、完全に無意識での行動だ。
力無く、とさりと腕が落ちた。
93 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:51:57.13 ID:umuQl57W0
その時、ツンの指に触れた、固い物。
ξ; ⊿゚)ξ(……私も……強くなるから……)
それは、落とした本人も気がついていない。
ξ; ⊿゚)ξ(みんなを……護れるくらいに……)
それは箱。闇から生まれ、闇を生む、黒い箱。
ξ; ⊿゚)ξ(……せめて……アイツを倒したかった……)
即ち、黒きトラペゾヘドロン。
ξ; ⊿ )ξ(倒し……たかった……!)
───思いは、呑まれた。
95 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:54:06.92 ID:umuQl57W0
<_;プД゚)フ「なッ───!」
変化。
張り詰めた空気の中での、突然の変化。
(;゚ω゚)「お!?」
それはブーンではなく。
ミセ;゚-゚)リ(……なに……?)
ミセリでもない。
ショボンら四人を包み込んでいた闇の球体が、突如波を打ち、奮えだした。
波は小さく、上から下へ、上から下へ。
そして一つの、大きな波が。
その波が地に触れたと、同時。
漆黒の球体は閉じ込めていた四人を解放し、飛び上がった。
96 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/09/30(水) 00:57:23.10 ID:umuQl57W0
そこに一切の音は無い。
全くの無音で、それはその動作を行った。
球体は、横たわる四人の真上で停止。
<_;プД゚)フ「な……こ───」
刹那。
球体は初動作を見せず急速にエクストへ向かい。
彼は言葉を言い終えることすら許されず。
闇に、呑まれた。
続く。
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